
再生医療とは人体の細胞を最大限に利用することによって,機能不全に陥った組織や器官を修復,再生しようとする医学的な試みです。臓器移植に伴うドナー不足の問題を解決できることに加え、従来治療不可能と考えられてきた難治性疾患を根治できるポテンシャルを秘めていることから、その実現化に大きな期待がかけられています。再生治療を万人に適応できる一般的な治療法にするためには、低侵襲的に採取でき、簡便に大量調製が可能な移植用細胞の開発が望まれます。体性幹細胞の一種である間葉系幹細胞は、高い増殖能と多分化能を有し、自家移植が可能で造腫瘍性も認めないことから、すでに国内外で多くの臨床試験が行われています。一方、間葉系幹細胞には、①雑多な細胞集団を付着培養するため他細胞の混入が避けられない、②採取に比較的侵襲の高い処置が必要となる、③高齢者など調製ができないケースが存在する、といった問題点があり、まだ一般医療として普及するには至っていません。
我々の研究グループでは、脂肪組織から単離した成熟脂肪細胞を天井培養という方法で培養することによって得られる細胞群(脱分化脂肪細胞: Dedifferentiated fat cells, DFAT)が、間葉系幹細胞に類似した高い増殖能と多分化能を獲得することを明らかにしました。DFATは少量の脂肪組織から均質な多能性細胞を安価に大量調製できるため、実用性の高い治療用細胞ソースとして期待できると考えています。本プロジェクトでは、我々がこれまでに蓄積してきた研究成果を発展させ、①DFATの治療用細胞としての特性解析、②臨床応用に適合したDFAT調製法の確立、③DFAT移植安全性の検証、④種々の難治性疾患に対するDFAT細胞治療の開発および前臨床試験を実施することを目的としています。
本研究プロジェクトにより、DFATの治療用細胞としての適性が明確になるとともに、DFATが有する多能性の分子メカニズムが明らかになることが期待されます。また末梢動脈疾患、重度熱傷、腹圧性尿失禁、難治性骨折など種々の難治性疾患に対するDFATを用いた細胞治療法の有効性や妥当性が明らかになると考えています。現在臨床応用が開始されている骨髄や脂肪組織の間葉系幹細胞に比べ、DFATはより少量の脂肪組織から年齢を問わず調製が可能であり、得られた細胞は異種細胞の混入がほとんどない均質な細胞群であるといった特徴があります。このため本研究は、①品質の確保されたヒト幹細胞を安定的に大量供給する基盤技術となる。②大規模な調製施設を必要としない低コストの細胞治療が可能となる。③万人に適応できる実用性の高い細胞治療開発につながる。といったインパクトを有しています。このように本研究は少子高齢化社会に対応した医療サービスの実現や社会保障費の抑制などの高い社会的効果が期待できると考えています。